間抜けな間食

こんな馬鹿げた非合理なことはやめるべきだ。まったく俺の社会不適合性といえよう。

昼夜逆転不登校、不勉強、、堕落しきった俺でも自分を律する心がないわけではない。それは一言でいえば、体型に関することだ。俺は体を引き締めたい、モテたいから。このままではいけない、なんの努力もなしに選ばれることなどないだろう。そんな俺もおそらく太ってはいないはずだ。現に体重も標準的である。ただ、いかんせん筋肉がない。十八の男に筋肉がないなんていうのも情けない話だ。中高通じて(通ってないが)部活などしていなければ、当然運動習慣もない。まったく運動とは無縁の日々を送っている俺たが、この新たに大学生活を控えた(本当に控えてしまいそうでもある)二月初旬、この怠惰な俺も、未来の性欲を救うため、食事制限を意識してみることにした。即ち性欲でもって食欲を抑えようということだ。

なぜ、食事制限なのか。実のところ、俺は数ヶ月前から筋トレを始めている。とはいっても、やはり運動習慣の無かった人間のすることなので、途中数週間サボったり、メニューを減らしながらというふうな具合ではあるが。ひとまず、一日60回のスクワットは続けられている。しかし、いくら筋トレをしたとしても、食べたいだけ食べていたら埒が明かない。それに、筋トレは脂肪を減らす手助けはしたとしても、直接減らすというものではないだろう。本当はウォーキングやランニングでもしたらいいんだろうけど、俺は出不精なうえ、さらに周りに人がいる中でのそれというのは恥ずかしくて敵わないので厳しい。だから、ひとまず食事制限をしてみる。

その食事制限というのは1、間食をしない 2、満腹中枢が刺激される前に物足りないからといって余計に食べるのをやめる 3、暇だからといって食べない、というようなものだ。

1、食べても食べなくても変わらない、脂肪を作るだけの全く意味のない行為だ。

2、ついついやってしまって、おかわりを食べている最中から後悔するくらいなのだが、なんとなくただの一回の食事として忘れてしまう。

3、これは暇を持て余した俺がよくやることで、そこまで腹も減っていないのに、(真っ当な人でいうところの)食事時だし、他にやることもないから、という理由でなんとなく食べてしまうのだ。

そんなところで俺はこれらの食事制限を意識し始めた。

俺は14時40分に目が覚めた。そもそもの予定でいうと"昨"晩アラームまでかけて12時に起きようとしていたので、これは大幅に寝過ごしたことになる。寝ぼけ眼でスマホを一瞥したことにより多分に期待を削がれた一日が始まった。

目が覚めてからいくらか経ち、時計に目をやると十六時を指していた。多少小腹は空いていたが、あと数時間も待つと夕飯、なにより食事制限を意識し始めていた俺はそのまま何も食べずに過ごすこととした。それから、夕飯まで実際に俺は我慢できたし、無駄にべちゃべちゃ食べていない俺、に得意になったりもしていた、この判断が虚しく徒労に終わってしまうとも知らずに。

夕飯を終えてから特筆すべきこともない反社会的ともいえよう怠惰な時間を相も変わらず過ごしていた。

日も変わった深夜。少々小腹の空いたのを感じたか感じていないかなんの気なしにキッチンへと向かう。そこで一つ鍋が火にかけられているのを発見する。よくよく見てみるとそこでじっくり火にかけられていたのは玉こんではないか。玉こんというのは山形の郷土料理で球いこんにゃくを醤油入りの出汁で煮込んだもので、カラシをつけて食べると最高に旨い。我が地元仙台でも祭りなどの屋台でよく売られている。そんな玉こんは俺の好物だ。

小腹が空いているのを認めた俺は、「よし、玉こんならカロリーはない。どうしてもというときはこれをつまむこととしよう。」そう決めた。

間食をしない、というのは一体何処へやら。恐ろしく己に甘い俺は、この時点で既に食事制限の意識を壊し始めていた。そうと決めてしまってからは早い。俺は盗みにでも入ったのかというように、真っ暗な台所へこそこそ行き、ガスコンロの上にあるライトをつけ、鍋からスプーンでひと玉だけ掬い、いそいそと冷蔵庫からカラシのチューブをだし、ちょろっとつけ、さっと口に入れたらさっさと自室へと戻っていく。そんなことを4、5回繰り返した。また、これが普段よりも旨く感じたりするから憎い。そんなこんなで時刻は四時になっていた。ぼちぼち寝ようかというところでベッドに入るがなかなか寝付けない。元々の昼夜逆転による睡眠の乱れもあるだろうが、やはり真因は空腹であろう。玉こんは低カロリー故に太らないが、低カロリー故に腹は満たされない。

YouTubeに違法アップロードされていた石原慎太郎西村賢太の対談動画の中の石原慎太郎が寮生活していたころのエピソードの影響、壊れかかった食事制限の意識、、俺は無性に菓子パンが食べたくなっていた。ここまで来たら、もう終わりだ。俺の生来の甘さ、「取り敢えず、今は寝るのが優先だ。それに今日は一食しか食べていないし、菓子パンくらい食べてもいいだろう。」そうしてあれこれ正当化した俺はすぐさまキッチンへと向かった。戸棚からマーガリンと砂糖が塗りたくってあるパン、それに冷蔵庫からいちごミルク、もう完全に壊れているのであろう、甘いのばっかりでは飽きるだろうからといってカルパスまで用意した。むしゃむしゃ食べる。パンといちごミルクが思いの外甘かった、カルパスが予想以上に進む。あれだけ望んでいた菓子パンよりも先にカルパスを食べきってしまった。そこからは甘いだけの食事。飽きる。また、空腹のときというのは実際の空腹具合よりも多く食べ物を用意してしまうものだ。ある程度腹が満たされてくるといちごミルクがキツく感じる。もうそこからはいつものおかわりのときと同様の後悔の念に駆られる。そうして全て食べ終えた後、口が甘ったるいのに耐えかねて玉こんをまたひとつつまんでしまったりしながら、ベッドに入る。なんだ、結局寝付けないじゃないか。それでなんとなくこれを文章でまとめてみることにした。

こんなことなら、夕方に小腹を満たしておけばよかった。ゼロヒャク思考の悪いところだ。食べるか食べないかではなくちょっと食べておけばよかったのだ。そうすればあんな脂肪の出来やすそうな時間にあれだけ食べずとも済んだのだ。結果的に食事制限からいうと最悪な事態へとなってしまった。

この経験を活かして俺の食事制限はちょくちょく破って程々に続けていくこととする。